調子に乗りました。
祝日の火曜日。
いつもより、お客様が来てくださるかもしれない。
それなら、30人前を全部打ち立てで用意してやろう。
56歳。
まだできると思いました。
実際、30人前はできました。
腰が壊れました。
6月2日から、毎週火曜日
小麦蕎麦を始めたのは、2026年6月2日です。
十割蕎麦屋が作る「蕎麦屋のラーメン」。
国産小麦100%。
加水率55%。
水を回し、踏み、延し、切る。
製麺機ではなく、人の手で麺を打っています。
6月に5回。
7月に4回。
8月11日の祝日までに2回。
今回で11回目の火曜日でした。
毎週、打ち立ての麺を用意してきました。
誰かに頼まれたわけではありません。
打ち立ての瑞々しさを食べていただきたい。
自分なら、まだできる。
そう思って続けてきました。
身体に疲れが残っていることには、気づいていました。
気づかないふりをしました。
祝日だから、30人前
8月11日は、火曜日の祝日でした。
いつもより多くのお客様が来てくださるかもしれない。
売り切れにしたくない。
足りなかったと言いたくない。
30人前くらい、手で打てる。
できないと思われたくない。
そんな意地がありました。
朝3時に起きました。
眠い。
腰も少し重い。
それでも、始めました。
小麦粉5kg、水分2.75kg
使った小麦粉は5kg。
加水率55%ですから、水分は2.75kg。
粉と水だけで、合計7.75kg。
それを分けずに、一気に水回ししました。
両手の指を広げ、水を小麦全体へ行き渡らせる。
持ち上げる。
落とす。
また混ぜる。
初めは軽かった粉が、水を抱え、少しずつ重い塊へ変わっていきます。
腕が疲れる。
肩が固くなる。
腰が重くなる。
それでも止めませんでした。
ここまで始めたのだから、最後までやらなければ格好がつかない。
誰も見ていない朝3時の厨房で、一人で格好をつけていました。
小麦は、言うことを聞かない
蕎麦と違い、小麦にはグルテンがあります。
延しても戻る。
押しても押し返してくる。
こちらも負けたくない。
麺棒へ体重をかける。
飛び跳ねる。
また戻る。
また飛び跳ねる。
延々と繰り返しました。
この頃には、腰が痛くなっていました。
でも、途中でやめる方が怖かった。
30人前を用意できなかった自分を認めたくなかった。
痛みより、見栄を選びました。
56歳。
自分の身体より、小麦に勝つことを選びました。
水を回す。
踏む。
延す。
切る。
30人前、完成しました。
やればできる。
まだ俺は動ける。
少し、嬉しかったです。
麺はできた。自分が壊れた
仕事が終わる頃には、腰が伸びなくなっていました。
椅子から立ち上がれない。
靴下を履くために屈めない。
寝返りを打つたびに目が覚める。
立つ時には、何かにつかまらなければならない。
30人前の麺は、きれいにできました。
作った本人が、きれいに壊れました。
なぜ、5kgを一気に水回ししたのか。
なぜ、30人前すべてを当日の打ち立てで用意しようとしたのか。
なぜ、56歳の身体を、まだ大丈夫だと思ったのか。
後悔しました。
30人前を用意できたことより、次の火曜日に30人前を用意できなくなったことの方が、ずっと重く残りました。
毎週続けたかったのに、自分の意地で止めかけました。
オスギにも迷惑をかけました。
情けない。
麺は間に合った。
人間が、間に合わなくなった。
2026年8月18日は、20人前です
翌週も、30人前を打つつもりでした。
できません。
腰が痛いからです。
2026年8月18日の小麦蕎麦は、20人前とさせていただきます。
前の週に30人前を打って格好をつけた人間が、次の週には10人前減らします。
「やっぱり無理だったか」
そう思われても仕方がありません。
その通りです。
無理でした。
30人前の麺には勝ちました。
自分の年齢には負けました。
格好悪い。
情けない。
申し訳ありません。
手打ち失敗録 #001
30人前、腰を壊す。

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